映画「サウナのあるところ」

アップリンクで上映中のドキュメンタリー映画「サウナのあるところ」を観に行った。今度の1月から3ヶ月程度、フィンランドのヘルシンキ大学に客員研究員をしにいくことになっているので、これを気にフィンランドマニアになろうと思っている。その活動の一環で観に出かけた。

映画予告編

映画は、年老いた夫婦と思しき男女がサウナでロウリュを焚いたり、ヴィヒタでマッサージしたり、背を流しあったりする場面から始まるが、女性の登場はこの一度きり。しかも、つづく男性のみの場面において、男女の関係の維持のコツとしてマッサージが語られることによって、最初の場面も男性のふるまいの規範の一種に回収されていく。あとはひたすら、さまざまなサウナで、さまざまな男性が語る割と重めな体験談がひたすらに続いていく。日本語のタイトルは「サウナのあるところ」なのだが、原題はMiesten vuoro=男の番(最近わたしはフィンランド語をかじっているので、おお!miestenは複数属格で、単数分格の語尾がtaないしtäのときの変化の仕方だ!とか考えてうれしくなる)。だから、男こそがその軛から解放される、そのための場としてサウナが選ばれている、そんな映画だ。

ちなみにロウリュというのは石に水やらアロマウォーターやらをかけて発生させる蒸気のこと。この映画のなかで出てくるフィンランドのサウナでは、じぶんで石に水をかけていたが、わたしは一度このロウリュとやらをフィンランドではなく日本、しかも横浜のイアスというスパ施設で体験したことがあるな、と思い出した。映画のパンフレットをみると、わたしの体験したのは厳密にはロウリュではなく、アウフグースと言うらしいのだが。それは係の人がいてサウナの真ん中に大きな石を置いて水をかけ、それを布で仰いで熱気を皆に行き渡らせていた。熱すぎて驚いた記憶がある。ロウリュはフィンランド語だが、アウフグースはドイツ語だと思われる。このへんのちがいも気になるところだ。

ヴィヒタは、白樺の枝葉を束ねたもので、これでからだを叩くと血行促進の効果や殺菌作用があるらしい。映画では、かなりバシッバシッというかんじでからだを叩いていて、痛くないのかなと疑問に思った。

映画はドキュメンタリーとはいえ、監督が探し出してきたひとたちが、自分で選んだサウナのなかで語るという形式で、だから厳密には登場人物が実話を語る短い芝居の連作、のようなものに近いのかもしれない。それにしても、ラストに歌われる「リスの歌」の物悲しくもある響きがちゃんとフィンランド的で、あの歌が最後に締めているのといないのとではかなり印象が変わってきたと思う。

トレーラーハウスやら公衆電話やらを使ったサウナ、また登場乱入するクマなどもユニークな風景なのだが、しかしこの映画はなんといっても要所で森や湖など、巧みに、わかりやすく典型的なフィンランドの風景を入れ込んでいる。それがフィンランドでのロングランにも、また各地での公開にも影響していると思う。サウナというモチーフ以外にも、細部にわたってナショナルイメージを踏襲しているという印象なのだ。

そういえばわたしはフィンランド映画をぜんぜん観たことがなかった。フィンランド語を勉強しているのに今回はkokemusしか聞き取れなかったし(体験という意味)、しかもそれは勉強の成果というよりもこのまえ行ったムーミンパークのおかげなので、勉強のためにもアキ・カウリスマキあたりを見てみようと思った。