学振PDの出産・育児⑤産育休的な期間のこと

実際に学振PDという身分で出産をし、育児休暇的なものを取得してどんな感じだったか、私個人の経験を書き記しておく。最初に言うと、私はたぶん周囲の手助けに恵まれているほうで、夫は2週間だけど育休的な期間を取り、在宅勤務をメインにすることで朝や夜の育児を担ってくれた。実母と実妹が近くに住んでいて、どうしてものときは子どもを見ていてくれたので、オンラインでの仕事も細々できた。

ただそれでも、率直に言って、結局育児に専念できるわけではなくダラダラと研究や講義をせざるを得ない「エセ育休」、しかも学振PD最終年度で就活もしないといけないという状況には、それなりに精神を追い詰められたと思うし、このときじわじわと負ったダメージから立ち直るには大変に長い時間がかかった(具体的には2年以上調子が戻らなかった)。

2020年11月

月初より学振PDの採用中断期間に入ったが、採用中断期間中に非常勤講師含めそのほかの仕事をすることが妨げられていないため、非常勤の講義を3コマ続けていた(リアルタイムオンライン1、オンデマンド2)。あと、採用中断期間は研究専念義務は解かれるものの、研究する自由は奪われないので、ふつうにオンラインでPD先のゼミに参加していたし、原稿もモリモリ書いていた。ただとにかく健康な妊婦だったのと、コロナでオンラインばかりだったからできたことだと思う。

2020年12月

まだ研究していた。翌年の業績がなくなるとブランクを開けたことが明白になり困るという思いがあり、査読論文を投稿した。それから依頼されていた原稿や、年度内のオンデマンド講義の準備を終わらせた。1月上旬出産予定だったので、早めに生まれてくることに備えて12月23日にすべての仕事を切り上げ、12月24日のクリスマスイブからは基本的に映画を見たり好きな本を読んだり散歩して過ごしていた。

2021年1月

ところが子どもが待てど暮らせど生まれてこず、予定日を10日近く超過。さすがに暇になり、原稿の手直しや、レポートの採点を進めていた。結局、ここまでに生まれなかったら計画入院ね、と言われていた1日前に、原稿を直し終えたころから陣痛が本格化した。でもなかなか陣痛の間隔が10分以内にならず、結局6時間くらい悶え苦しんだ。朝6時に産院に着いたら、もう子宮口が十分開いているので麻酔打てますと言われる(無痛分娩です)。私は麻酔がすごく効いたほうで、テレビを観てたら初産にしてはペースが早い、と言われ、昼過ぎには生まれた。

退院後、最初はさすがに何もできないのではないか、と思っていたのだが、私の場合は無痛分娩が本当によかったようなのと、あとはたぶんアドレナリンが出ていてそこまで体力の消耗を感じなかった。なので、子どもが寝ている隙にレポートの採点とか読書とか、産後1週間ちょっとでもう始めてしまった。今思うと、このときおとなしく本など読まないで寝ていればよかったと思うが、もうそうせずにはいられないように生まれついているので仕方なかったかなとももう。

2021年2月

あまり記憶がない。いったんレポートの採点も終わって非常勤の仕事もなくなり、仕事から一番遠ざかっていたときかもしれない。

2021年3〜4月

ここが一番辛かった。と言うのも、別記事で書くが学振RPDの申請期限が4月中旬にあり、申請書の準備を始めたからだ。これは出産前にもっと計画を練っておくべきだったと今になってすごく後悔している。とにかく3時間おきに夜も起きているという状況で、夜中最後の授乳が終わって朝4時ごろに申請書を書こうとして立ち上がれず、ボロボロ泣いたこともあった、というかほとんど泣いて過ごしていた。

しかも4月中旬には講演仕事も再開した。すごくいい経験だったのでやってよかったと今でも思っているが、講演前に搾乳しようとトイレへ行ったらすでに母乳がめちゃくちゃ漏れていて絶望したりした(服が乾きやすい素材だったのと、スカーフを巻いていたのでよかった…)。

2021年5月〜8月

学振RPDの申請書を提出したあとも、いろんな公募にチャレンジしていた。子どもは幸いまとまって寝るようになったので、夜やるか、母や妹に来てもらってまとまった時間を捻出して書いたりしていた。ただ、後半はコロナがかなり深刻化して、ワクチンの順番がなかなか回ってこなかった母と妹には頼れなくなった。もちろん出かけられない。屋外と言っても、真夏の暑さで赤ちゃんを連れて歩くのもできない。しかも子どもはだんだんと手がかかるようになっていく。公募以外にも、細々と引き受けた原稿や講演の準備を、とにかく空き時間があればやるしかない。それでだんだん心が萎れていって、しょっちゅう泣いていた。9月に保育園が始まったときは、一筋の光が射した…!と本気で思った。

こう書いてみると、休みの期間ほとんど泣いていたんじゃないかという気がするが、でも子どもはいわゆる「手のかからない子」で、正直育児自体で悩むことは少なかったほうではないかと思う。また私は産前産後とも、家族のおかげもあって、体調についてはかなり安定していたので、体力が枯れてしまうということもなかった。これらは本当に人によって違う点だと思うので、それゆえ私の体験談全般がなんら一般化可能性を持たないものであることを留意されたい。

メンタル不調の原因はもっぱら、学振最終年度で就職や研究業績についてものすごい焦りがあったことではないか。出産によるホルモンバランスの変化とか、育児という未知のタスクが加わったことももちろん無関係ではないだろうけれど。